夢を見た

 普段の仕事やらプライベートな部分で、疲れやストレスが溜まった時、私は仕事帰りにとあるライブハウスに足を運ぶことにしている。そのライブハウスに出演しているバンドは、往年のヒット曲をカバーしたり、オリジナルなポップ・ロックを演奏したりと色々な試みをしていて、実に私のストライク・ゾーンであり、ガス抜きにサイコーなのである。
ハマっている。


 しかし、いくら私にとってストライク・ゾーンな店であっても、来場者数が低迷すれば撤収しなければならないのが店の宿命だ。出来る限り足しげく通ったとしても、ダメなときはダメだし、私が通わなくてもOKな時はOK。通算積算したところ、そのお店の収支はあまり芳しくないと店長から耳にしていた。
 ある日、ぶらりとそのライブハウスに足を運んだところ『改装中』の張り紙がしてあった。


(そうか、閉店ではなく、装いも新たにスタートを切るのか!)


 閉店ではないと知り、ちょっと嬉しくなりつつも、新しいスタイルとは一体どんなものなんだろうとやや不安もあった私。その後、新装オープンのメールが届いたので早速行ってみることにした。



 薄暗い入り口を抜けると、突然、眼前に様々な機材が装備されているテーブル群が展開している。


「店長ぉ・・・こ、これは、一体何ですか〜!?」私が驚きの声を発すると、


「やぁ、いらっしゃい! 如何です? 新しいライブハウス・スタイルの提案ですよ!」
店長、ご満悦。


「あ・・・新しいって・・・」


「名付けて『スポーツ・ジム&ライブ・バー』!・・・ライブ時間の時は演奏を楽しみ、演奏の合間には、各テーブルにしつらえたマシンで、お客様が各々エクササイズで楽しめるという寸法です♪」


(酒を飲みながら筋トレする人なんているんか?)


とりあえず、新しい試みであることはわかる。


しかし、ジムとバーが一体化するだけでも新しい試みなのに、そこにライブハウスのエッセンスが取りこまれているとなると、もはや「試み」というか「冒険」である。
第一、マシンが邪魔になってステージが良く見えないし。


「演奏に合わせてエクササイズもできるんですよ!『フィジカル』とかが演奏されると、ほら、あのベンチ・プレス、ライト・アップされる仕組みになっています。しかもビートに合わせて、どこに力を入れるのが正しいエクササイズになるかライトが明滅して利用者をフォローするという画期的なシステムを構築しました♪」



(・・;)




…大方の不安通り、数日後にはまた『改装中』の張り紙が入り口にしてあった。


 私は(よくぞ『閉店』にならなかった)と胸をなでおろしたのだが、その後の改装が、正しい改装であることを祈るばかりであった。


ほどなく、「装いも新たにリ・オープン!」のメールがやってきた。よし、行ってみよう。



「や!いらっしゃい! 前回の反省点を踏まえ、今回は『基本に立ち返る』をキーワードにリフォームしました。もう予算は尽きました。これで駄目だったら撤収しかないかもしれませんが、如何でしょう?」


「おぉ!」


 この度の改装は、ステージを思いっきり広くし、照明とかPAとか、そういったところに力を入れている風だ。基本である。


 客席は黒を基調としたシックなデザインで、各テーブルが2人ずつ座れるようになっており、そのテーブルは簡単に合体・分解ができて、1人用テーブルになったり、4人テーブルになったりできるようになっている。これもナイスだ。


 ステージは上座に設置されるのではなく、客席がステージを囲むようにレイアウトされている。そのステージは大きな円卓のようなもので、バンドが演奏している最中、バンド全体がステージの回転によって360度回れるようになっている。つまり、どこに座っているお客さんでも、バンドを正面から裏面から観れる環境だ。。。ちょっと、キャバレー風じゃないですか?



折角なので、演奏を聴いて帰ることにした。


さすが新しい舞台ではバンドの皆さんもテンションが上がる。


後半では、新しいレパートリーが次々に披露され、お客さんたちはご満悦ひとしおだ。


アンコールになった。


バンドの皆さん、気合を込めて「Joy to the world」を演奏し始めた。


すると店長が(ニヤリッ)としたかと思うと、無線で何やらコールした。


「お客さん、今回の改装の目玉です!」


店長の不敵な笑みが私を不安に駆りたてた。



「!!」



 なんと、舞台の袖から、宝塚的なと言おうか、聚楽的なと言おうか、サンバ的なと言おうか、キラキラ・ビキニを身にまとい、ラメラメ帽子を被り、クジャク羽のようなものをお尻に纏ったダンサーがぞろぞろとやってきて、ステージを埋め尽くした。
 で、みんなで両手を上げて「じょぉ〜〜〜い、とぅざ、わ〜〜〜〜〜〜♪」と振りつけはじめた。



ご・・・ゴージャスですな。



・・・それでいいんか?






目が覚めた。


深層心理の奥底で、普段着の中にサプライズを求める私らしい(^^;