夏に聴くべきは「人魚の夏」という選択肢っ。
夏を惜しんで、やはりこの曲を語らなばなるまい。
小林美樹の「人魚の夏」です。1974年。古い。
しかし、しかしなのだよ、この楽曲に「アイドル歌謡曲の重要なエッセンス」が凝縮されているのだ。
この曲を初めて聞いた時、私はあまりにもキュンとなってしまった(小学生のくせに)。「スター誕生!」で合格した美樹ちゃん、まぁあの番組で(知らない方、ごめんなさい)合格すりゃ、大概はある程度の将来を約束されたような部分があったが、この年は苦戦を強いられた。
なんたって、「ポプコン」というこれまた強烈な登竜門から「あなた(小坂明子)」というビッグなのがやって来たし、ジャンルこそ違いはすれ、演歌部門では殿様キングスによる「なみだの操」という国民的ヒットソングも登場した。それだけではない。フィンガー5は絶頂期で「ダイヤル6700」とか売りまくれば、御三家ひろみ郷は「花とミツバチ」、西条さんは「薔薇の鎖」と怒涛のヒットソング嵐に巻き込まれてしまっていたのだ。
そういう中にあって、私は、TV媒体からラジオリスナーへとシフトするお年頃でしたので、TVで流れてた曲と趣向の違うラジオの世界に埋没。これが功を奏して、その手のTV歌謡放送に影響されることなく、ラジオ放送曲に染まることができたのである。
もっとも、その影響でいち早くグレープ(さだまさしの前身ね)の「精霊流し」を聴き飽きるほどに耳にするという事態にも遭遇するのだが…。
そして「人魚の夏」はラジオにおいては結構かかっていたんだよね。思わずカセットテープレコーダーで録音するんだけど、イントロが流れてから録音スイッチを入れるものだから、いつも頭が切れてしまっていた。ほんで、曲の途中でフェードアウトしてしまうこともあったもんですから、最後まで録音できないこともしばしば。カセットテープレコーダーで録音するというのは大変な作業だったのだよ。
とはいえ、楽しい思い出でもある。
「人魚の夏」…この曲については、かつても論じたことがあるのを思い出したよ。ちょっと思い出しついでに、この曲の何処が凄いかについてご説明申しあげましょう。
1番の中ほど・・・
『・・・ら帽子を 投げ捨て〜て、
真〜っ白なドレス 脱ぎ捨て〜て』♪
ってとこ。のっけから、なんか意味が深いでしょ?
『私は人魚〜に 変わ〜って〜行く〜』♪
この「人魚」ってとこの発音がキュンとくる。
かわいいと言うよりも、色っぽく聞こえていた(当時)。
「人魚〜」ではなく、「人形」的な聞こえ方がよかったのだな。
『真夏の人魚に 変わって行く〜』♪
「ま・な・つ・の・に・ん・ぎょ・に」と、スタッカートでアクセント付けして、「変わってゆく〜」に女性コーラスが被ってくる。このオクターブと3度、5度のハモリが素晴らしい。
『誰かに〜見られたら〜 突然〜見られたら〜』♪
「だ〜、れ〜、か〜、にぃ〜」と、今度は一音一音をロングトーンで決め打ち。そしてこの「にぃ〜」盛り上がり部分から、ベースが単なるルート弾きからランニング・ベースになる。これがとてもゴキゲンなラインなのだ。
『どうしたら〜 いいのでしょ〜お〜』♪
声がひっくり返ったり、「しょう〜」が舌っ足らずな歌い方になったりで、アイドル全開。
アイドルは歌が上手すぎてはいけないのである。
ちょっと素人っぽい初々しさに、ファンとの距離感を縮めるというか、身近に感じられるような雰囲気作りをしているのだよね。戦略ですね。最高です。
そして、1番が終われば、必要最小限の間奏だ。コーラス部隊のサザエさん的ハーモニー(ぱっぱや、ぱぱ〜ぱ〜♪)、なんかのオクターブ奏法(キョン、キン、キョン♪)、ブラスのお約束的編曲(トランペット、かなり前面に出てますぞ)・・・あー、悶絶。
(2番後半部)
誰かに見られたら 突然見られたら
どうしたら いいのでしょう
どうしよう どうしよう
一番最後の「どうしよう」の部分だけが、1番と歌い方が異なる。1小節分長く歌っている。で、ここにバックのキメが入っている。素晴らしい。
エンディングのコード進行は、きっと何かからのパクリではないかと思うんだけど、それはそれで、全然オッケー。
昭和のアイドル歌謡曲これに極まれり! なのでありますん♪