礼服のウェスト出し

 今から随分と昔の話だけれど、私、社会人になるちょっと前に、礼服をオーダー・メイドして作ったです。いくらだったか忘れたけど、けっこうしたのを記憶しているです。当時、何を思ったか、「礼服だけは本気のを作ろう」なんて息巻いてたんだよなー。
なんたって、百貨店の「絨毯敷き」のフロアでオーダーしたですもん(^^;

 礼服の型(タイプ・デザイン)ってのは、流行に左右されるものではないので、大事に着れば一生モノだという価値観はあった。が、自分の体型が変化するなんてのは夢夢思ってもいなかった。実際、社会人になってから最近に至るまで、殆ど体型に変化はなかったし。なので、自分の選択は正しかったと思っていたです。

 ところが。今年の年初に「煙草を吸わないことにしよう」という行動に出まして、300日位が経過しました。これで体重が8kgくらい増えちゃいました。
礼服に限らず、今まで自分が着ていたスーツ全てが着れなくなってしまったです。

 で、少なくとも、大枚叩いて買ったと思われる礼服だけでもどうにかしたい。そう思った。

 確かに、デザインは流行に左右されないとは言え、それなりには「古さ」を感じてしまうようになってきたし、生地も何となしに周りの人達の着ているものと比較すると、自分のがちょっと浮いてるような気もする。(いい加減、新しいの買えば?)なんて心の囁きもある。。。

そこで、いつもスーツを作るお店に礼服のズボンを携え、相談をもちかけることにした。



店員「はいはいよくある話ですよ、えっと、ズボンのウェスト調整ですね?・・・ちょーっと、拝見。。」ズボンの裏側のお尻の部分を観察しだした。。

私「こちらで作った服ではないので恐縮なんですが、・・・如何なもんでしょ?」

店員「ん!?、店長ーーーっ!ちょっと来てくださいよ!これ、これ見て下さいよ!」


何やら担当者、テンションが上がって店長を呼ぶ。


店員「ほら、これ、この生地!・・・どうです? ね?『モヘアの○○』でしょ?」

店長「お! ○○だ。それにしても、かなり密に織りこんでるなぁ。」

店員「お客さん、こういっちゃぁなんですが・・・これ・・・、高かったでしょう?」

私「え?、ええ、まあ・・・」

店員「あ、ほら、店長、ここのところ、『○○縫い』になってますよ。」

店長「ほんとだー。手ぇ込んでるねー。番手の小さいの使ってるねぇー…。」

店員「この生地、今でもあるんですけどね、かなり入手困難でして。。。しかも、作っても高すぎて中々売れないんですよ。お客さん、この礼服、絶対大事にした方が良いですよ!ウェスト出し3.5cmまでなら出来そうです。大丈夫ですよね。」

私「はい、それだけ出れば・・・」

店員「光沢は生地そのものから出てるものでして、決してスレとかヘタレなんかじゃなくて、そういうものなんです。型も流行とかそういうのじゃないです。伝統的なやつ。これ、もし虫食いで穴が空いても、金出して直すだけの価値のあるものですよ。ほんとほんと。かしこまりました。お預かりいたしますねー。」


当時、高い買い物をしたとは記憶しているけど、そんなに凄いとは思ってなかった。
ってか、お店の人達のコーフンした専門用語の溢れている光景が驚きだった。

『結局時代遅れの古着になっちまったなー』なんて思ってたけど、どうやらそうじゃないみたい。
なんか、妙に嬉しくなった。
そうか、そうじゃないのか。
そういうものなのか。それでよいのか。そうかそうか。。(^^;


「無理な背伸びと無茶な出費」(=若者の特権)を突発的に行なった昔(の若気の至り)。
その顛末のお話でした。

ちなみに今回のウェスト出し料金は1,500円位であがったので、嬉しかったです♪