結構身近な問題かもしれない

 誠一(仮称)が、夏休み明けに会社に出てきたところ、机の上にメモが一枚乗っていた。

「8/18PM5:15山下様よりお電話あり。」

(山下様?・・・誰だ?)

 自分が記憶している脳内アドレス帳にインプットされている「山下さん」と言えば、親戚のおばさんしかいない。でも、おばさんが誠一の会社に電話して来たことなんて、入社以来一度もない。誠一がこの会社に入社してからもう直ぐ20年にもなる。。。

(多分、飛び込みのセールスかなんかだろう。)

メモを残してくれた社員にとりあえずの質問をした。

「ねぇ、この『山下様』っての、僕の名前を言ってた?」
「はい、言ってましたよ。」
「ふぅぅん、でもま、個人情報なんて軽く流失してる世の中だもんな。。。で、女性?」
「ええ、ちょっと老けた感じの声でした。」

(ちょっと老けた?)

やや気になった。
まさか・・・ね。と、思いつつも「一度電話をして見ようか」と誠一は考え、おばさんの家に電話をしてみることにした。


「あ、誠一だけど、おばさん?」
「あ、うん・・・」
「なに?どしたの?会社に電話なんて、めずらしいね?」
「う・うん、もう『済んだ』のかな?・・・って思ってね。」
「何が?・・・あ、夏休み?夏休みならもう終わったよ、今は通常勤務さ。」
「・・・そう、・・それならいいんだけどね。」

何とも歯切れの悪いというか、どうも受け答えがトンチンカンなことに誠一は頭を捻った。

(どうしたと言うんだろう?)

どうも合点がいかない。
とにかく母親に電話してみるか。
今度は実家に電話をかけた。

「あ、お母さん?今さっきさ、おばさんのところに電話したんだけど、何かあったの?」
「え?・・・別に何もないけど?どうかした?」
「うん、僕の休みの間におばさんから会社に電話があったみたいなんだ。会社におばさんから電話なんて今回が初めてのことじゃないかな?で、ビックリして電話したら、なんだか話しが噛み合わないんだよね。」
「ああ、それはね、電話口の近くに旦那がいたりするからなんだよ。旦那には自分の身内の事はあまり喋りたくないし、聞かれたくない性分なんだよね。」
「へぇぇ、そうなんだ。じゃ、今度おばさんの旦那がいない時にでも電話してみようかな?」

そんな会話をした。

数日後、今度は母親からの電話がケータイにかかってきた。

「最近、お金に苦労していないかい?」
「へ?そりゃ、苦労して無いと言えば嘘になるけど、それなりにやってるよ。」
「困った事があったら、真っ先にお母さんに電話するんだよ。」
「へいへい、わっかりました。何で急にそんなこと言うです??」
「じゃ、そういうことだから。」

ガチャリ・・・

極めて謎だ。一体どうしたと言うんだ??

それから概ね一週間が経過した。
誠一の携帯が鳴った。母からである。

「母さん?どした?」
「いやね、言おうか言うまいか考えていたんだけど、言うことにしたわ。」
「・・・何を?」
「・・・実はね、先日おばさんが来てね、お前が監査で使い込みが発覚して至急お金を工面して欲しいと言ったそうじゃないか。しかも『お母さんにはナイショにしておいて欲しい』とまで言ったんだって?」

でぇぇ!
それって、典型的な振り込め詐欺じゃないか!?

「何言ってるの!僕がそんなこと言うわけ無いじゃないか!」
「いや、あの声は確かに誠一だったと、おばさんは言っているよ。」
「ちょとまて、それで、振り込んじゃったの?」
「いや、それが振り込めなかったらしい。2〜3の銀行を周ったけど、出来なかったんだって。それで、お金の工面が付いたかどうか心配しているのよ。」
「ちょとまて!!!心配ご無用っ!・・・僕が何でおばさんに無心しなくちゃならんの?だって、おかしいと思わない?もしそれが僕で、例えお金に苦しんでいたとして、おばさんにお金を所望するなら、僕なら直におばさんの家に行くよ。電話で済まそうなんて、そんな失礼なことするわけ無いじゃないか。」
「うん、そうだよね、お母さんはお前の言うことを信じることにするよ。」
「信じる『こと』?・・・おいー!んも何も、んなことしてないって!」

 何度かのやり取りで、母の疑いは消えたような印象を受けた。
しかし、一番の問題は、今もおばさんは誠一がお金に苦しんでいると言うことを、『信じて疑っていない』と言うことである。

 幸い実害には至らなかったものの、振り込め詐欺には、実害以外の部分でもこういった誤解疑念を被害者に蒙らせる側面もある。これ、結構厄介な傷跡になるんだよね。何せ誤解されたまんま余計な心配をかけさせてしまっているところに何ともやりきれない思いがある。


サイバー犯罪、是非撲滅してもらいたいです。




・・・ところで「誠一=のんき」です。
 他の人物にはアレンジを施していますが、これ、つい先日に起きた「実話」っす。
警察にも届けましたし、問題となった指定口座、名義人など、実際にその銀行の担当役席、本部のコンプライアンス統括部にも情報提供を行いました。
 ここにきて漸く事態は収拾してきましたが、不愉快な思いをする日々を過ごしてしまったですよ。たまらんなー、私、その人からは使い込み人間と思われ続けてきたもんな〜(涙)。そりゃね、カメラを買う金とか、飲みに行く金とか、お金は枯渇してますけどね(苦笑)、会社の金を云々するほど堕ちちゃいませんぜ♪

 だいたいねぇ、使い込みがばれたら、フツーその場で「手錠」です。後でお金を送ったからと言って解決するようなものではございません。

 にしても、敵もどんどん芸風を変えて電話してくるんだな・・・皆様、お気をつけあそばせ!